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「給与DXのエムザス」 給与とシステム両方を本業に約20年

社長とれんど考察

「これから > 今まで」

2019年4月1日

■三だけ主義
先週、経済学者の金子勝教授がNHKラジオの「社会の見方・私の視点」という番組のなかで、経済政策アベノミクスに批判的な立場で、現在の生活への満足度の高さと将来の不安を感じる度合いの高さを示したデータをもとに、今だけ・金だけ・自分だけという風潮が、昨今の世相を表しており、特に政治や経済の結構地位の上の人にそういう人が多く、多くの日本人が将来を悲観してうんざりしている。本当に明るく未来を考えるには、リスクを見極め、社会が抱えている課題に真剣に取り組むことの必要性があるという趣旨のお話しをされました。その中で出た「今だけ・金だけ・自分だけ」のフレーズが気になったので考察してみました。

■今だけ・金だけ・自分だけ
今だけ・金だけ・自分だけの「三だけ主義」とは、東京大学大学院の鈴木宣弘教授が『食の戦争』で最初に使って広まった言葉のようです。鈴木教授は、「自由貿易に反対するのは人間が合理的に行動していないことを意味する。人間は合理的でないことが社会心理学、行動経済学の最近の成果として示されている」と言う経済学者がいるが、行動経済学は人間の不合理性を示したのでなく、従来の経済学の前提とする合理性を否定したのである。三だけ主義で行動するのが「合理的」人間ではなく、多くの人はもっと幅広い要素を勘案して総合的に行動する。それが合理性であるとし、一部の強い者だけが利益を貪り尽くす新自由主義の強欲に批判的な立場を明確にしています。

■実はいつの時代も同じこと
このように、評判が良くない「三だけ主義」ですが、昔の日本はこんなのではなかったとか、世の中をリードするような立場に就くことはなかったと言う人がいますが、これは本当に現代だけのことなのでしょうか。昔の権力者が今の政治家より特段優れていたとは思えません。良い人もいたでしょうし、悪い人もいたことでしょう。それは現代でも同じことではないでしょうか。人々が将来を悲観することも古今東西変わっていません。心の苦しみを救っている宗教が、この世から消えることなく、むしろ長い間存続していることからも明らかだと感じます。「三だけ主義」は時代に応じて見える姿を微妙に変えながらも、本質的にはこの世からなくなることはないでしょう。

■全員がそうなると困ります
「三だけ主義」がなくなることはないとしても、全員がそうなるのは困ります。しかし、色んな人がいることを認める多様性こそが人間社会の特徴でもありますので、右に行ったり、左に行ったり、上に行ったり、下に行ったりしながらも、うまくバランスを取っていくことになるのでしょう。特に政治家や大組織の経営者たちが「三だけ主義」に偏るのは大きな問題です。今がその時なのかというと、正直分かりません。今の世の中が歴史になった時に判明することになると思います。ただし、それは大衆の意見であって、政治家などには先を見据える能力が必要です。そうでなければ、大多数の大衆をより良い方向に導いていくことができないからです。

■”今だけ”主義
「三だけ主義」の一つ、”今だけ”について掘り下げてみます。”今だけ”とは、先の事を全く考えず、過去や歴史にも興味が無く、目先のことだけしか見ない・考えないという近視眼的、刹那的な思考・行動様式です。例えば、昨今の国や企業の不祥事を例にとると、今さえよければ先々のことを考えずに借金ばかり積み上げるとか、未来の成長の芽を摘んでしまうとか、姑息な問題先送りとか危険の隠ぺいをするとか、将来の子孫のことを考えずに環境を汚すといったことがあります。最近でもニュースで話題になる政治家、官僚、経営者の不祥事の原因は、その人たちの心の奥底にある”今だけ”乗り切ればいいとの思想から湧き出た行動であることは容易に推察されます。

■短期志向の末路
米研究機関の調査によれば、長期志向の企業は短期志向の企業より、売り上げや利益、時価総額など全ての面で上回ったことが示されています。長期志向企業の行動特性として、不況期でも研究開発費を増やし続けるという点が挙げられます。一方、目先にとらわれて失敗した典型例は、超音速旅客機コンコルドです。巨額の費用を投じてコンコルドを完成させたものの、騒音と燃費の悪さから世界中の航空会社に敬遠され、ほとんど売れませんでした。それでも、開発したイギリスとフランスの政府は国家的な体面を保つために生産を続行し、損失をさらに拡大してしまいました。失敗を認めて損切りし、挽回を目指すという長期的志向があれば、結果は良い方に変わっていたかもしれません。

■今までとこれからとどちらが大事か
短期志向は中長期の成長にマイナスの場合が多いのは間違いなさそうですが、長期志向の経営をするために何より重要なのは長期収益の源泉となる強みを作って向上させることです。まさに、ドラッガー氏の「マーケティングとイノベーション」そのものです。後は、実行あるのみですが、「目標が達成できない最大の理由は目標を忘れること」、「目標を忘れなかったとしても、目標達成できないのは結果だけを目標にしてしまうこと」と誰かが言ったように、実現するのはそう容易くはありません。自分を動機付けするための判断基準は、「今までとこれからとどっちが大事なの」と自分に何度も何度も問いかけることから始まるのだと思います。