「給与DXのエムザス」 給与とシステム両方を本業に約20年

「 インフレ行動 〉 デフレ思考 」

公開日:2026.05.01
最終更新日:2026.05.01
■インフレ時代への本格的な転換
我が国経済は、長く続いたデフレ局面から明確に転換しつつあります。物価の上昇は一時的な現象ではなく、賃上げの広がりや企業の価格転嫁の浸透を背景に、構造的な変化として定着し始めています。これまでのように「価格は下がるもの」「コストは抑えるもの」という前提は、すでに通用しなくなりつつあります。しかし、多くの企業や個人の意思決定は、依然としてデフレ時代の思考に縛られているように感じます。節約やコスト削減を最優先にする姿勢そのものが悪いわけではありませんが、それだけでは成長機会を逃してしまう。ここ数十年で染みついた、人を安く使ってやろうという考え方では、これからの時代には取り残されてしまうことでしょう。いま求められているのは、インフレを前提にした発想への転換だと感じています。

■デフレ思考がもたらす機会損失
デフレ思考の最大の特徴は、「失敗を避けること」を最優先にする点にあります。価格競争に勝つために値下げを行い、コスト削減を積み重ねることで利益を確保する。このモデルはデフレ環境では有効でした。しかしインフレ環境では、同じ行動が逆効果になる場合があります。価格転嫁をためらえば利益は圧迫され、投資を控えれば競争力は低下します。例えば、原材料費の高騰局面において、値上げに踏み切れないままの企業と、顧客に価値を丁寧に説明し価格改定を実施した企業とでは、その後の収益力に大きな差が生まれています。前者は体力を消耗し、後者は適正な利益を確保しながら次の投資に踏み出す。この差は、単なる判断の違いではなく、思考の違いから生まれています。守る経営から、攻める経営への転換ができるかどうかで、企業の将来は大きく分かれていきます。

■地政学リスクが突きつける現実
グローバル経済の時代、米国とイランの軍事的緊張は、遠い国の出来事ではありません。エネルギー価格の上昇、サプライチェーンの不安定化、為替の変動などを通じて、我が国の企業活動に直接的な影響を与えます。ここから学ぶべき教訓は、「前提は簡単に崩れる」ということです。平時を前提に最適化されたビジネスモデルは、有事においては脆弱になります。例えば、特定の地域や取引先に依存した調達体制は、一度の混乱で機能不全に陥る可能性があります。また、コスト最優先で構築された仕組みほど、柔軟性を欠き、変化に対応できなくなる傾向があります。重要なのは、変化そのものを避けることではなく、変化を織り込んだ意思決定ができるかどうかです。不確実性は排除できない。だからこそ、分散や代替手段を前提にした柔軟な構えが求められます。

■AIの進化が加速する構造変化
こうした環境変化に加え、AIの進化がビジネスの構造を大きく変えています。生成AIや自動化技術は、業務効率を高めるだけでなく、意思決定のスピードや質にも影響を与えます。これまで人手に依存していた業務は急速に自動化され、人間に求められる役割は変わりつつあります。例えば、資料作成やデータ分析、顧客対応の一次処理などはAIが担い、人はその結果を踏まえて判断や戦略立案に集中することが求められます。単純作業や知識の蓄積ではなく、価値を生み出すための思考や判断が重視される時代です。さらに、AIを前提に業務を再設計できるかどうかが、生産性の差として表れてきます。AIは脅威ではなく、使いこなすべき前提条件です。この変化に対応できるかどうかが、企業だけでなく個人の競争力を大きく左右することになりそうです。

■キャリア形成も発想の転換が必要
こうした環境の変化は、私たちのキャリア形成にも直結します。デフレ時代には、「安定した環境で長く働くこと」が合理的な選択でした。しかしインフレと不確実性の時代においては、それだけでは十分ではありません。環境に依存するのではなく、どのような状況でも価値を発揮できる力を持つことが重要になります。スキルを磨くことはもちろんですが、それ以上に、変化に適応する力、学び続ける姿勢が求められます。例えば、新しい技術や業務領域に対して自ら手を挙げて関わることや、これまでの経験を別の分野に応用してみることが重要になります。また、自分の強みを言語化し、どの環境でも通用する形に抽象化しておくことも必要です。キャリアとは与えられるものではなく、自ら真剣に考えることによって設計し、更新し続けるものだからです。

■デフレ思考を手放し、行動を変える
時代は確実に変わっています。しかし、思考や行動が変わらなければ、その変化を活かすことはできません。デフレ思考のままでは、インフレ時代のチャンスを取りこぼしてしまいます。重要なのは、小さくてもよいので行動を変えることです。価格の付け方を見直す、新しい投資に踏み出す、AIを試してみる。こうした一つひとつの行動が、将来の差を生みます。さらに言えば、その行動を継続し、試行錯誤を重ねることで、自分なりの成功パターンを築いていくことが重要です。これからの時代は、「どうなるか」を考えるだけでなく、「どう動くか」が問われます。変化を恐れるのではなく、小さく試し、学びながら前に進む姿勢が求められます。私は、いまこそデフレ思考を手放し、インフレ時代にふさわしい行動へと転換すべき時期に来ているのではないかと考えています。