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「給与DXのエムザス」 給与とシステム両方を本業に約20年

社長とれんど考察

「二項動態 > 二項対立」

2020年3月1日

■創造性の源泉
「人間の本質は、デカルトのいう「我思う、故に我あり」の一人称ではなく、共感する二人称の行為にある。二項対立ではなく、対立と協調を両立させる「二項動態」の関係性こそが創造性の源泉だ。他者との出会いを通じた自在な意味づけ、価値づけのただなかで、新たなアイデアや概念は湧き出てくる。「共創」に手抜きは許されない。」これは、昨年の九月に日経新聞に連載された、世界的なナレッジマネジメントの巨匠で一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏の「私の履歴書」最終回でのお話です。自らを「平凡な私」とメタ認知され、「ペアを組んで対話を重ねる」ことで経営学の理論化を進めてこられた野中先生の言葉だけに説得力を持って迫るような気がしました。

■変化とは進化
創造性はイノベーションとも言われますが、これは俗に、それまでこの世になかった、とても画期的なモノ・コトを作り出すことのように思われています。しかし本当は、そのような遠い存在ではなく、程度の大小でもなく、例え少しだけであっても「より良く」なることを意味すると理解しています。ですから、勉強や仕事ができる人だけのものではありませんし、別の言い方をすれば、それまでになかった考え方・やり方・進め方を取り入れて、より良い価値を生み出し、変化を起こすことなのだと思います。このような変化・進化をもたらす自発的な人や組織の変革を生み出すために必要なものが「二項動態」であり「共感」であると野中先生は説かれたのです。

■事業の目的は顧客の創造
では、創造なり「イノベーション」は何のために必要なのでしょうか。ドラッカーは「事業の目的とは顧客の創造である」と説明しました。事業のあるべき目的は、金銭的な利益の追求や、ただ利己的なもの、などであるべきではなく、顧客を創り出すこと、つまり社会に役立つような製品やサービスを提供し、それを使ってもらえるような良い関係を結ぶこと、自らの組織が社会から望まれるような良き存在となることだとしました。その目的を達成するために必要な手段がマネジメントで、その基本機能を「マーケティングとイノベーション」であるとしました。つまり、「イノベーション」は、顧客の創造を高めるよう機能するべきものであるということになります。

■マーケティングとイノベーション
「マーケティング」は、顧客のニーズを探り、顧客が満足する価値を提供する活動です。企業の唯一の目的である顧客創造には、欠かせない機能です。これは外向きの活動と言えます。一方、顧客の創造には、顕在的なニーズに対応するだけでなく、いままでとは違った価値を創造することで顧客を創り出していくことも不可欠です。このような活動の源泉が「イノベーション」です。こちらは内向きというか、組織内部の活動と言えます。顧客に受け入れられる商品やサービスを生み出すのはその組織であり、人であるわけですから、「マーケティングとイノベーション」はあたかも自動車の両輪のようにうまく機能するのが理想的であることは間違いありません。

■日本的経営の知的機動力
「マーケティング」なくして、短期的な成果をもたらすことはできませんし、「イノベーション」なくして、長期的な成果は約束されません。この両者を適切に動かすのが企業のマネジメントとなり、進むべき方向を示すのが、その企業の経営戦略になります。野中先生は「日本が敗戦直後から驚異的な経済成長を遂げた理由は、継続的改善を得意とした独自のマネジメント・システムである日本的経営にある」「日本型経営のイノベーションとは、大規模組織でありながら、共同体主義的な組織で実現できることにある」と説明しました。しかし、その後バブル崩壊後の停滞を経験し、日本的経営の「知的機動力」をいかに再構築するかが目下最大のテーマであると指摘されています。

■二項動態
日本的経営の強みであるべき「共同体主義組織」とは、メンバーが徹底的に意見を出し合いながら全員で目標を成し遂げる組織です。「イノベーションの本質は、一人一人の利己、自我を越えてチームとして組織的一体感を確立する”共感”にある。」「物事を二項対立として捉えるのではなく、一見矛盾する二者を両立させる「二項動態」として捉え、ダイナミックで変化に富む二項動態の経営を目指すことがイノベーションにつながる。」「知的機動力とは、変化する状況に応じてありとあらゆる種類の知や考え方を導入し、思考の改善や変更には終わりはないということを理解してタイムリーに対応することである」と説明され、まさにワンチーム経営が求められているのです。

■リベラルアーツ
野中先生の分析を自分なりにまとめると、イノベーションを生み出す前提条件は、自分一人では太刀打ちできないと認めるメタ認知能力や対立構造ではなく多様性や対話を求める共感能力を身に着けることです。AIなどのIT技術が普及する今後も変わることはないでしょう。情報が溢れるようになればなるほど、本質を見極めるスキルが問われることは間違いありません。これらの創造的かつ想像的スキルをどうやって身に着けるのか、「次の次の次の波ぐらいまで本質直観ができれば、それは実は未来も見ているということになる。ダイナミックに考えるバランス感覚をリベラルアーツによって磨くことが必要。」とのこと。相当に勉強しなければ本質はつかめないようです。