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「給与DXのエムザス」 給与とシステム両方を本業に約20年

社長とれんど考察

「チーム > ワンオペ」

2018年9月1日

■ワンオペ育児
家事と育児、保育園の送迎や父母会、学校のPTA、子の予防接種、塾の送迎等々のほぼすべてを母親が担当し、父親は手伝い役という家庭は、高度成長期という過去の一時期には当たり前のモデルでした。しかし時代は変わり、専業主婦世帯より共働き世帯が多くなりましたが、相変わらず母親が家事と育児をほとんどやっている状態を、ワンオペ育児と言うようになりました。「働き方改革実現会議」の民間議員である白河桃子さんは、働き方改革は暮らし方改革であるとし、「共働き共育て社会」への転換を提唱されていますが、今回は東京大学・中原先生の『育児は仕事の役に立つ~「ワンオペ育児」から「チーム育児」へ』を読んでこの問題を考察してみました。

■ワンオペの問題点
ワンオペと言えば、育児のみならず、深夜の飲食店での一人での運営や、担当者が一人しかいない”ひとり経理”とか”ひとり情シス”のように、会社の中にもあるものです。やむを得ない場合もありますが、一時的ならともかく、常態化する問題が起こりがちです。まず、サービスの質が落ちます。そして、休めないとか、忙しいと余裕がなくなりメンタル疾患にもつながりかねない等々です。家庭の場合でも、一人で負担を抱えすぎると、育児はおろか日常生活もまともに送れなくなる場合もあります。この状況を改善しようと、中原淳先生たちは「育児経験が、リーダーシップ促進など、ビジネスパーソンにポジティブな影響を与える」との研究を行なっています。

■チーム育児の効用
この研究では、ともすれば「育児と仕事はトレードオフ」だと考えてしまうのですが、すでに68.1%が「共働き」世帯で、さらにどんどん増加している中では、当然ながら、多くの家庭で「仕事と育児の両立」が今まで以上に重要なテーマとなります。その際、母親だけでなく父親も積極的に育児に関わる「チーム育児」を目指すべき姿として挙げています。この「チーム育児」を経験することにより、「リーダーシップ」や「マネジメントへの意欲」そして「親の人間的成長」が養われ、ビジネススキルの向上にも役立つので有利であると検証しました。これを実現するには、しつこく残るワンオペ育児発想を、父親自らはもちろん、職場全体で転換することが必須になります。

■働き方改革の促進
リーダーシップやマネジメントへの意欲は、「チーム育児」を経験してこそ向上するというのは大事な視点です。このように、チーム育児がビジネスの側面からもスキルアップにつながり、育児が落ち着いた時期が来た時に、職場の重要なポジションを担う人材に成長する可能性が高くなれば、経営者も着目すべきだろうと思います。目先の利益を重視することをこれから先も続けていくのか、中長期のスパンで会社と従業員の利益を考えられるのか、これこそ経営者に突きつけられた大きな課題です。中原先生たちは、「チーム育児世帯」が増えることで、職場に協力体制が作られ、無用な残業が減り、「働き方改革」が促進されると論じます。

■チームビルディング
中原先生たちは、チーム育児を円滑に運営するにあたり、大きなウエイトを占めるのは「体制づくり」だと考えています。子どもの世話、子どもとの遊び、家事など、育児の実行に向けた「体制づくり」とは、1.協働の計画と実践、2.育児情報の共有、3.家庭外との連携から構成されます。特に情報の共有においては、「言わんでもわかるだろ」とか「忖度しろよ」とかはご法度となります。チーム育児を進めていく上では、それぞれが育った環境で身につけた規範や価値観を相手に押し付けるのではなく、お互いの価値観をすり合わせて、それぞれが納得できる妥協点を見つけなければなりません。まさに、職場におけるチームビルディングと同じことです。

■越前朝倉家の家訓
話は変わりますが、越前の武将朝倉敏景が遺した家訓の第4条には「名品の刀や脇差しを愛好するのは、ほどほどにしておけ。なぜかというと、たとえば1万疋(現在の1千万円ほど)の刀を持ったとしても、100疋の槍100本には勝てないからだ。1万疋の金があって100疋の槍100本を買い求め、100人に持たせたら、戦いの時に一方を防禦することができる」と書いてあると知りました。これを今月のテーマに当てはめて解釈すると、強い一人より多くの普通の人たちと戦った方が勝てるということです。「ワンオペ」から「チーム」へというのは、どんな時代にも共通する普遍的なテーマなのかもしれません。

■ダイバーシティ実現した暁には
ここまでのように、チーム育児は、ダイバーシティ、男女共同参画、働き方改革、生産性革命等々とも共通しています。これらを実現できる社会とするには、自分以外の人に自分と同じことを求めてしまうことを改めることが出発点です。多くの人たちが、一人ひとりの違いを認めるようになれば、コミュニケーションが積み重なって、育児でも仕事の場面でも協力体制が整ってきます。そうして、違いが障害にならない社会になると、今度は私たちに求められるのが主体性です。これからは、男だからとか、女だからとか、ではなく、「この先、自分はどうしたいのか」が重要視される職場や社会になるように感じます。