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「給与DXのエムザス」 給与とシステム両方を本業に約20年

社長とれんど考察

「智慧 >知識」

2016年12月1日

■混沌とした過渡期
先月の大統領選挙で、アメリカ国民はトランプを大統領に選びました。また、少し前になりますが、イギリス国民はEU離脱を決めました。隣国でも、国民は疑惑の渦中にある大統領の辞任を求めています。その他にも似たような動きが各地にありますが、なぜ、いままで想像もできなかった出来事が次々に起こるのでしょうか。その変化の本質を知るには、それらの背後にある因果や相関関係を見抜かなければなりませんが、そのためには「歴史的大局観」が必要だと佐藤優氏、宮家邦彦氏は指摘しています。「歴史は繰り返す」とは、古代ローマの歴史家クルティウス・ルフスの言葉らしいですが、このような状況を先人たちはどのように解決してきたのか、とても気になります。

■原因は点取り虫
振り返ると、わが国経済が絶頂期を迎えたのは昭和から平成にかけてですが、時を同じくして、米ソ冷戦は終結し、明確で強大な対立軸がなくなり、世界は一つになりました。特に経済の分野においては、工業社会をいち早く乗り越えたアメリカが新自由主義を主導したため、わが国も含めた西側諸国のみならず、中国などの新興大国もこの波に乗りました。経済以外で気にする敵対勢力もなく、それまでの倍以上の市場で、自由に振舞えるのですから、ゼロサムの様相になりました。まるで、「テストの点だけ取ればいいでしょ」と言って掃除や手伝いもしない、少数の秀才点取り虫たちが、大多数の強くない人たちから搾取してきた構図です。この状態に各国の人たちは怒っているのです。

■(科学者)加藤弁三郎さん
そういえば、ITバブルのとき、アメリカでは「ニューエコノミー」とか言って、IT革命によって景気は循環しないという理屈がありましたが、一時期に存在した理論や聞きかじった知識をすべて正しいとして、一切を判断しようとしていたのではないでしょうか。協和発酵の創始者であり、科学者で経営者、宗教者でもある加藤弁三郎さん曰く、「なるほど知識は、実生活に役立つ。しかし、知識は智慧のしぼり粕である。知識を活かすもの、それが智慧なのだ。智慧には境界がない。出でては、科学となり、芸術となり、文化となり、政治となり、経済となり、宗教となる。そのように融通無碍なるものである」。解釈が難しいですが、現代風にいえば、アプリケーションを動かすOSのようなものでしょうか。

■(経営者)宮内義彦さん
この「OS(智慧)」を持ち、使うことができるのは誰でしょうか。それはやはり「ヒト」だと思います。経営者の宮内義彦さんは著書の中で、「企業の三大経営資源は(ヒト・モノ・カネ)ですが、工業化社会から知識集約社会へ移りつつある現在の状況を考えると、「モノ」の比重が下がり続け、代わって「知恵」の比重が高まっているのではないかと思います。「知恵」は、「ヒト」と殆んどイコールです。ノウハウ、パテント、経験、知恵などは、どれも「ヒト」です。そうすると、企業は「ヒト」を常に第一に考えていかなければいけないことになります。」と言われています。ヒトが経営資源といいながらも、相変わらず第一にカネを第二にモノを優先している企業や人が多いなか、極めて重要な提言だと感じます。

■(政治思想家) マキャヴェッリ
とはいえ、現在の新自由主義は、カネ第一主義です。周囲がカネ第一なのに、自らはヒトに重点を当てるのはなかなか難しいのも一面の事実です。だからこそ、”やったもの勝ち”だといえます。ルネサンス期の政治思想家マキャヴェッリを象徴するとされる「マキャベリアニズム」とは、目的のためには手段を 選ばないという意味で使われていますが、有名な『君主論』は、君主とはかくあるべきとした国王への提案書のようなもので、自らがそうだったというわけではないそうです。そのマキャヴェッリは、「いかなる分野でも共通して必要とされる重要な能力が一つある。それは想像力だ。」という言葉を遺しています。想像力はカネにもモノにもありません。それを持っているのはヒトだけなのです。

■智慧とは想像力
冷戦終結からこれまで、世界のリーダーたちは秀才の点取り虫でしたが、想像力は欠けていたようです。このような混沌とした空気がやってくることを想像できませんでした。塩野七生さん曰く、「想像力が動き出すのは、疑問を抱いたときである。疑問を抱くのは、壁に突き当たったからである。秀才とは、学業成績の良い人のことだから、これまで壁に突き当たったことがないのだろう」。点取り虫の暗記力では、千変万化のヒトの思いなどつかめません。その色んなヒトの思いが壁となり、秀才たちの行く手を塞いでいるのです。想像力も筋力と同じで、訓練を続けないと劣化します。常に「自分ならどう考えるだろうか」をあらゆることのスタートラインにする習慣の大切さが身に染みます。