社長とれんど考察

「フラット化 > 既得権益」

■フラット化する世界
トーマス・フリードマン著『フラット化する世界』を参考にすると、冷戦後により進んだグローバル化による大きな変化は、消費者の立場に立って考えると、より良いモノやサービスがより安価に手に入れられるようになったことでしょう。同時に、企業側から見れば、それまで競争相手にならなかった発展途上国が成長し、世界中のライバルが市場シェアを奪おうと熾烈な競争に巻き込まれているということでしょう。そして、このような状況は全体として見れば、経済の効率性を上昇させるとともに、それまで多くのシェアを握ってきた既得権者の特権がなくなる面も持っています。そこで最近身近におこっている”失既得権”について考察して参ります。

■デジタル庁
今月発足した菅政権の看板政策の一つに「デジタル庁の創設」があります。官庁システムの最大の問題点は、それぞれがバラバラにやってきたため、国・市区町村間のシステムに互換性がないことです。この互換性のない官庁システムを担ってきたのが国内大手IT企業数社です。ほぼ独占状態の仕組みができており、新規参入はほぼ不可能と言われています。国がデジタル庁を作るということは、国がバラバラのシステムを統合、管理するということでしょうから、既得権益を持っている企業がリセットされるという意味があります。アメリカで巨象会社が衰退し、ガーファに置き換わったようなことが我が国でも起こるのでしょうか。

■正社員
動画サイトでは、同一労働同一賃金施行により、「正社員はオワコン」というような刺激的なタイトルもありますが、フラット化や失既得権という観点から、あながち間違いではありません。子供の頃から「いい学校」「いい会社」に入るため、限られた時間内で数多くの答え合わせに成功し、大企業や官庁に入って一生安泰なんて世界はもうなくなるでしょう。何せ人生百年時代ですから、一発勝負の人生はあり得ないし、学歴、職歴などの既得権の価値も下がることは必然です。いくつになろうとも、勉強や情報収集を正しい方法でやり続けている人には何も関係ないことですが、そうでない多くの正社員には影響必至です。その証拠に大企業は40歳以上を対象に大リストラ中です。

■ヌシ社員
社内という狭い空間においても同様です。ちょっとくらい他人より早く出世したとしても安泰ではありません。高度成長期に確立した年功序列で慣れ親しんでしまっていると、意識の面でここからなかなか抜け出せません。この仕事は私しかできないなんて思い続けて慢心していると、フラット化&失既得権という時代の変化に流されてなくなってしまうことでしょう。ヌシ社員は独特の動物的カンでライバルになりそうな人や正論を言う人に対し、詭弁を弄して追いやろうとします。それで成功することもありますが、続くことはありません。デジタル化が本格化すれば、どんな会社にもいるヌシ社員はよほど自分を変えないと生存ができなくなることは明白です。

■重役
続いて社内にいる重役です。といっても、全ての重役ではありません。重役というポストを既得権益化している重役のことです。上場会社でも創業家重役の既得権を剥がすのは容易ではないようですが、同族経営が多い中小企業ではなおさらです。まだ会社が儲かっているうちは必要悪で許容されますが、コロナショックのような大きな不連続に直面すると続けることは難しいでしょう。一番美しい解決策は、ご本人が自ら辞任することなのですが、ご本人は既得権にしがみつくでしょうし、ご本人が事の重大さを分かっていないので、この策は取れません。最後は社長が、大久保利通のように暗殺されることを覚悟で大改革をやるしかないのでしょうか。

■政治家
政治家の既得権益も維持するのが厳しくなっています。親から地盤・看板・鞄を引き継いだとしても、ない人にくらべると有利ではありますが、当選する保証はありません。まして不祥事など起こすと致命的になりかねません。政治家のような本当の権力者は、二世であろうと、三世であろうと、資質と真の実力のみで評価されるべきでしょう。まかりまちがっても偉そうにし過ぎると敵が多くなり、明治維新で武士の特権がなくなったり、戦後は軍部の威厳がなくなったように、いずれは没落してしまうのです。だからといって有名人ならいいわけではなく、私たち国民の政治家を見る目を養うしかありません。そうしないと十一年前のような選択をしてしまいます。

■格差の拡大
既得権益を持つ会社や人がそれを失い、多くの会社や人が機会を得られるような社会はとてもいいように思います。しかし全員が恩恵を手にできるわけではありません。フラット化するということは、実は弱肉強食の世界ともいえるからです。政治家は全ての国民の生命と財産を守ることが仕事なので、ベーシックインカムなんて議論をしていますが、それが格差拡大になることの証しです。力量ある会社や人だけが成功するのです。そこに新たな既得権がうまれます。そして破れていきます。歴史上明らかなように、この繰り返しです。いずれにせよ、これからの環境に合わせて延命することを考えることが、私たちにできうる唯一のことなのでしょう。