社長とれんど考察

「ストロング > ハード」

■能楽師の安田登さん
最近、能楽師の安田登さんが出演するラジオ番組「日曜カルチャー人間を考える~古典に学ぶ」を聞くなかで、安田さんが「ハード」と「ストロング」の違いを説明され、人は「ストロング」になろうとするのに「ハード」になってしまいがちだと言われました。「ストロング」とは「ハード」と「ソフト」の間にある“遊び”であり、「ハード」は“遊び”のない硬いものだと。表面的には明るく、ポジティブで強そうでも、いったん落ち込むと立ち上がれないような人は「ハード」で、落ち込む時は徹底して落ち込み、楽しむ時には最高に楽しめる、そんな振幅を持った心持ちの強さが「ストロング」です。コロナ禍で不安が高まる世情だけに、追求したいテーマだと感じました。

■信長の舞
戦国時代のイノベーター織田信長は、桶狭間合戦の前に「人間五十年」の舞を舞ったというのは有名な話ですが、これは何のためだったのでしょうか。権力を握るには、まさに生きるか死ぬかの時代です。しかも今川の圧倒的多数に向かうための死の恐怖を、能の深い呼吸と声により克服し、それを行動エネルギーに変えたということです。大きなストレスをぎりぎりまでため込み、深々とした呼吸と声を使い、信長は自分の本当の力を引き出しました。現代的感覚では優雅に舞を舞って遊んでいるように思いますが、実用的かつ合理的な行動としての舞であったのでした。このように恐怖から逃げずに共存たうえで立ち向かう強さこそ「ストロング」なのだといえるでしょう。

■角栄のゴルフ
現代でも同じです。今太閤と言われた田中角栄元首相は、毎週のようにやるほどゴルフが大好きでした。多くの人はコースに出ると、ワンラウンドやるのが普通だとすれば、角さんは最低でツーラウンドやったとのことです。ゴルフを始めてからは、「歩くことは健康に良い。おかげで熟睡できた。人間何が一番幸せかというと、よく眠れることだ」と言っていたとのこと。現代では、戦をするわけではないのですが、権力闘争は苛烈極まりないものでしょうから、恐怖や不安などストレスも相当なものだったと推察されます。安眠は何よりのストレス解消法だったのかもしれません。ちなみに、現首相の安倍さんは座禅で「ストロング」を得ているのでしょうか。

■コーピング
「ストロング」の強さを得た先人に共通するのは、恐怖や不安と共存したうえで克服し、現代語訳PDCAを実践したからこそ事を成し遂げたことです。さらに、後世に名を残している偉人たちは、その恐怖心をやたらと口にしなかったことと、そしてそれをコントロールする方法を知っていたのだと言われています。翻って私たちはどうでしょうか。ストレス要因への対処法をコーピングといいますが、コーピング技法の多くは、ストレスをあまり感じないようにしたり、リラクゼーションなどを志向しているものもあり、対症療法的なものも多いのですが、私たちも恐怖と不安を超えるためにも、自分なりのコーピングを持つことは必須のスキルだと言えます。

■体と一体で
信長や角栄のコーピングは、心と体を一体としたコーピングであるとも言えます。安田さんは、能の効用を説かれ、能の深い呼吸と発声が、心と体の隠れた力を引き出し、信長の呼吸法は、ゆっくりと繰り返される能の深い呼吸は、反復律動性の呼吸として、やる気をキープしたまま、ネガティブな感情を抑えることができる理にかなったものだったとしています。角栄のゴルフも同じでしょう。健康のためと言いながらも、本当は心のざわつきを収めるものだったと推察します。最近話題の「Kさんのマージャン」はどうだったのでしょうか。頭を使うのはいいことだとしても、結果から言うと、残念ながら「ストロング」の強さを得られなかったように感じられます。

■ハード的強さの限界
「ストロング」の強さを得るための授業は学校にはありません。よって、自得するしか身に着ける方法はありません。小さい頃から、クイズのように唯一絶対の正解を当てる試験でいい成績を取るために暗記を繰り返し、限られた時間で多く答え合わせができた人が優秀だというスペックを得てきました。しかし、社会に出てからは、年齢や役割が高まるとともに、知識を解決策としてアウトプットすることが求められます。さらにDX時代はごまかしがきかないので、ますますこの傾向は強まります。暗記型を「ハード」的強さとすれば、「ストロング」的強さに転換できなければ、人生の後半には活躍できる場面は限定されるでしょう。人生百年時代の大きな課題だと思います。

■レジリエンス
「ストロング」の強さはレジリエンスです。レジリエンスとは外的な衝撃にも、ぽきっと折れることなく、立ち直ることのできる「しなやかな強さ」のことです。言い方を変えれば「メンタル・タフネス」になることとも言えます。これは、ストレスをなくすこと・ストレスを感じなくなることではなく、ストレスを行動エネルギーに変換する力を持つことが重要で、そのツールは信長にとっては「舞」、角栄にとってはゴルフだったということなのでしょう。コロナ禍は、感染症の問題であるとともに、心の問題であるとどなたかが言っていました。これまでに経験したことのないほど大きな不安を超えられるような力を得る機会にしたいと強く願うものです。