社長とれんど考察

「更新 > 模倣」

■ドラッカーと世阿弥
多くのビジネスパーソンは、自社や自分がやりたいもしくはやるべき目標を実現し成果を出すことを目指して活動しているわけですが、その道筋を支援してくれる先人たちの一人に、知の巨人やマネジメントの父と言われたピーター F. ドラッカーがいます。そのドラッカーから遡ること六百年以上前の室町時代に現在まで続く能を完成させた世阿弥は、芸能の世界において、既にドラッカーと同じようなことを感じ、語り、伝えていました。今回は、どんな分野においても共通して通用する普遍的で本質を突く二人の先人たちを中心に、目まぐるしく変化する現代社会に生きる私たちの進む方向性の参考になることを学びたいと思います。

■顧客の創造
ドラッカーの有名な言葉の一つに「企業の目的は顧客の創造である」があります。企業は、顧客のニーズを満足させることにより、顧客の創造を高めるよう機能しなければならないのです。顧客創造の実現に向けて、どんなチームであろうと、メンバーをまとめあげ、目指すゴールにたどり着かねばならない。その道筋として必要になる組織や人を動かすための方法を「マネジメント」と定めました。その「マネジメント」の基本的な機能は、マーケティングとイノベーションだとしました。一方、世阿弥は、能にとってもっとも大切なものを「花」という言葉で象徴しました。それは人気で左右される芸能の世界で観客を引きつけるための経営戦略であったのでした。

■マーケティング
企業の唯一の目的である顧客創造には、マーケティング活動は必須です。これが難しいのは、顧客と社会は時代と共に変わり続けるからです。一時期、一定期間流行ったとしても、その瞬間から終わりが始まっていると言えるのです。ドラッカーの言うマーケティングとは、「顧客というものをよく知って理解し、製品が顧客にぴったりと合ってひとりでに売れてしまうようにすること」です。一方、世阿弥は、「新しいこと」「珍しいこと」こそが「花」であると言っています。つまり、常に新しいもの、珍しいものを作り出していくことができないと、観客に飽きられてしまうのです。顧客の創造は、古今東西変わることのない真理ですが、その渦中にいると忘れてしまいがちなことです。

■離見の見
そこで世阿弥は、自分の姿を左右前後から、よくよく見なければならない(離見の見)。客席で見ている観客の目で自分をみなさい(見所同見)。眼は前を見ていても、心は後ろにおいておきなさい(目前心後)と自らを戒めています。現代語訳すれば、常にお客様の立場に立って考える顧客第一主義ということでしょう。さらに、客観的に自分の行動を批判してくれる人を持つなど、ひとりよがりになることを避けるよう、心掛けなさいということです。現代語ではメタ認知でしょうか。メタ認知能力が高い人は、人とコミュニケーションを取ったり、仕事の進行や目標を定めたりといった能力に優れているといわれているのは、実はずっと昔からのことだったようです。

■イノベーション
顧客の創造には、「新しきが花」であり、「珍しきが花」が必要ですが、それらを作り出すのは誰かというと、自らしかありません。他の誰でもない自らが行動を革新することこそがイノベーションなのです。世にない画期的なことを生み出すことだけではありません。世阿弥は「常住せぬもの、それが花であり、能である」と言いました。そこに留まり続けることなく、変化することこそが芸術の中心であると言っているのです。ドラッカーは、世の中の変化に気づき、その変化に合わせて、新しいやり方に変えていくことがイノベーションであるとしました。両者に共通しているのは、一からの創造だけでなく、物事の新しい切り口や捉え方をすることの重要性を説くことです。

■初心忘るべからず
ドラッカーは、「21世紀に重要視される唯一のスキルは、新しいものを学ぶスキルである。イノベーションとは、昨日の世界と縁を切り、明日を創造することである。」と言いました。これを世阿弥は、「初心忘るべからず」と表現しました。それ以前に経験したことがないことに対して、現実の自分を受け入れながら、その新しい事態に挑戦していく心構えのことを「初心」と言っているのです。世阿弥によれば、初心を忘れなければ、中年になろうが、老年になろうが、新しい試練に向かっていくことができる。つまり、「老いる」こと自体もまた、未経験なことであり、チャレンジなのです。世阿弥が言った「初心」とは、常なる自己の更新ということなのです。

■日々自己更新
いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくことを松尾芭蕉は不易流行と言いました。また、松下幸之助翁は「日に新たに」と言い、宮内義彦さんは「今日は新しい日だ」と言いました。これらの皆さんは、「昨日までの自分を模倣してはいけない。今日は更新された自分にならなければならない。」と言われているのではないでしょうか。事業の目的である顧客創造のためのマーケティング活動を有効するには、自らのイノベーションが不可欠です。いずれも世阿弥もドラッカーも他の先人たちが一番伝えようとしたのは、自分自身をより良くさせることのみが、目的に近づくのだということだと分かりました。