社長とれんど考察

「考える > 悩む」

■シン・ニホン
先月、ヤフーCSO安宅和人氏の講演を聞く機会がありました。テーマは「シン・ニホン」、シン・ゴジラ同様、巨大な不明物に初めて直面している我が国がどう対応すべきかを示唆する内容でした。安宅さんは、現職の傍ら政府委員を多く務められており、統計を駆使しての解説には説得力が感じられました。僕らはどんな時代に生きているのかという問いに「情報産業革命」という歴史的な局面にあるとして、バブル崩壊後から今までの我が国の相対的優位性低下の原因は、「IT産業(10%)以外の産業(90%)のIT化の遅れである」と分析。これからは、その90%の産業が巨大な伸びしろになり、この価値向上こそ、シン・ニホンが進むべき道であると明快でした。

■イシューからはじめよ
講演のあと、『イシューからはじめよ知的生産のシンプルな本質』という著作を拝読しました。テーマは「問題」に悩むより、それが本当に「問題か」をまず考えようというものです。生産性の高い仕事とは、「イシュー度が高く、かつ解の質が高い仕事である」と定義。イシューとは、「二つ以上の集団の間で決着のついていない問題」と「根本に関わる又は白黒がはっきりしていない問題」の二つ。イシュー度の高さとは、より根本的、より決着のつきにくい問題としました。最初に「その仕事は本当に思考の時間を費やすべきか」を考えられると、「本当に力を注ぐべき仕事」に集中できるという考え方は、なかなか意識できないのが現状ですので、とても参考になりました。

■悩むより考える
取り組むべきイシューが決まれば、解決策を考えなければなりません。この段階では、「考えるのと悩むのとの違いは何か」を習得しておくべきであるとします。その違いとは、「悩む」とは「答えが出ない」という前提のもとに、「考えるフリ」をすることであり、「考える」とは「答えが出る」という前提のもとに、建設的に考えを組み立てることと定義します。イシューは考えるべき課題であることが前提ということになりますが、特にビジネスの世界において、イシューの前に悩んでいるとすればそれはイシューではないこととなります。「問題解決の前に問題の選定」と「悩むより考える」とは、時短のためにも、今後は意識して身に付けたいスキルだと思います。

■仮説あってのイシュー
イシューは「答えを出せる」ものですから、仮説を立てることが大切になります。例えば「システムの市場規模はどうなっているか?」というのは単なる「設問」に過ぎず、「システムの市場規模は縮小に入りつつあるのではないか?」と具体的に仮説に落とし込むことで、答えを出し得るレベルのイシューにはなります。答えを出し得るとは、「仮説が正しいor誤っている」が確認できるということです。これができないと、「答えが出ない」ことに悩んでしまって時間を浪費することになります。つまり、「考える」とは、思考停止となって手をこまねくことではなく、常に頭のどこかに仮説を持ち、答えを追い求めることを生活習慣にできるかどうかがポイントとなるようです。

■聴衆は無知だが賢い
次の段階は、アウトプットのイメージです。ノーベル賞を受賞したマックス・デルブリュックという研究者の「デルブリュックの教え」という講演・発表に当たって示した心構えが参考になります。これは、「ひとつ、聞き手は完全に無知だと思え」「ひとつ、聞き手は高度の知性をもつと想定せよ」というものです。専門知識を持たない受け手には、伝え方を適切にすれば必ず理解してくれる存在だとして信頼するスタンスの大事さです。そして、自らの「伝え方」を磨こうと思えるので、さらに伝え方のスキルが向上します。聞き手に伝わってこそ、問題解決が成就するのです。ともすれば伝えたつもりでも伝わっていないことが多々ある身としては学ぶべきスタンスです。

■『知っているだけではあかんのや。できる人にならな』
安宅さんは講演の最後に、「官僚の頭は固いですか」という質問に対して、「一番頭が固いと思うのは経団連です」と答えました。失われた数十年で経費削減に躍起になってきた大企業経営者を的確に捉えているなと感じました。頭の良い人たちを集めても経済成長できなかったことを考えると、経営の神様が言う「知っているだけではあかんのや。できる人にならな」というのは金言です。社会人になって年齢を重ね、一定のポジションを得たとしても、学生までと同じように、唯一絶対の答えがあるものと錯覚している自称頭の良い人では、シン・ゴジラに来襲されたらひとたまりもないことは明白なことでしょう。

■AI・データ時代対応
最後に、シン・ニホンという、AI・データ時代において、リーダー像を考えてみました。単なる物知りは、AIに取って変わられる危険性が高いでしょう。学生までのように、限られた時間内に数多く正確に暗記することが正しいとの呪縛から抜けられない人は多いものです。医師や弁護士のような高度でも暗記型の職種でも同様です。これに対し、AIと共生して豊かになり得るのは、的確に決められる人かつ行動できる人です。やるべきことを知ったうえで、課題や物事に対し、余計な判断と感情なしに観察することにより、向かうべき方向を的確に決められ、具体的に動いていける人です。まさにイシューから始められる人そのものといえるのです。