社長とれんど考察

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■パン屋さんのセルフレジ
先日、個人経営のパン屋さんが、レジ係のパートスタッフを募集しても、全く応募がないので、困った果てにセルフレジを導入したとテレビのニュースで見ました。厚労省によると、5月の有効求人倍率1.6倍で、これは1974年1月の1.64倍以来の高水準とのこと。人手不足は相当に現実化しています。ちなみに、このパン屋さんでは、レジ係がいなくなってから、店主がパンを焼きながらレジ対応していたのですが、そうすると焼けるパンの数が減ってきて、売上に悪影響が出るなど、深刻な問題になっていたらしいです。最近の人手不足を機に、このような現象は、どんどん増え、人口減少が続く我が国においては、当面続くことになるでしょう。

■ソサエティ5.0
我が国では、Society 5.0という、これからの社会構想があります。それは「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。」というものですが、パン屋さんのセルフレジを見て、機械化やIT化は、元々人手不足の地方や中小企業ほど必要なものであることを再認識しました。しかも、それが手に届く値で、実現が可能な環境になってきたことを実感します。

■特定個人に過度に依存
冒頭のパン屋さんの例では、人手を求めたものの叶わず、消極的に導入したわけですが、パンを買いに来るお客さんのためにも、ご自分の事業のためにも良い結果につながるのではないかと思います。人手不足倒産は既に起こっていることであり、我が国では企業数が減る一方ですので、事業の継続のためには、人手に頼り過ぎることなく、最新の技術を取り入れることは不可欠になっています。また、パン屋さんのレジ係の例がいみじくも示したように、特定の個人に過度に依存する組織は、その存続が危ぶまれることは、今に始まったことではありません。パン屋さんはこれを解消したといえますが、軍隊と企業とスポーツの場面で具体例を探してみました。

■術と芸の世界
小松真一さんの手記「虜人日記」を題材とした山本七平氏の本を読んだときに、現代の組織にも当てはまる術と芸という考察がありました。それは、印刷機の達人であるTさんが持つ印刷技術について、個人のもつ”芸”であっても、氏から離れて、それだけを系統的に多くの人が同時に学びうる、体系的技術ではないとし、戦場でも同じようなことが日本軍にはあり、一定の制約条件や想定条件のもとで、術や芸を争うのが中心になっており、条件が変わった時に対応できなかったことも敗因の一つであると考えました。「前提が一変すれば、百点満点が八十点になるという形にならず、零点になってしまう」など、戦場という異常な世界で、冷静に見ていることに驚きました。

■仕事を属人(ヌシ)化させない
同じことはないにしろ、同じようなことは現代の企業にもあります。特定の仕事を特定の人が長期間にわたって担う「ヌシ化」は、中小企業でよくある現象ですが、一見、その仕事に詳しい専門家を育てるようでも、業務は改善しないし、その社員が辞めたときに、仕事が滞るものです。アイリスオーヤマでは、仕事を属人化させないために、「仕組み至上主義」を貫いた経営を徹底されています。仕組みをつくって習慣化してしまえば、組織は自律的に回り始めます、最初に仕組みをつくるときや変えるときには、強力なリーダーシップが必要です。個人の名人芸に頼る必要のない仕組みがあると、変化にも対応できやすくなります。まさに経営がコミットすべきテーマです。

■再現性ある常勝チーム
以前参加したセミナーで、駅伝四連覇した青学大の監督の話がありました。その話のポイントは、「選手は毎年代わっている」ということでした。単に同じメンバーで四回続けて勝ったのではないのです。これこそ、会社が存続するためのヒントであり、アイリス社のこだわる「ヌシ化の防止」も、小松真一氏が指摘する「芸より術」も、パン屋さんの「セルフレジ」も、ソサエティ5.0の「IoT」にも共通するものを感じます。つまり、誰にでもできるくらいに仕事を仕組み化できない限り、青学大や昔の巨人V9のような、再現性ある常勝チームはできないのだと感じました。しみじみ、260年続いた江戸幕府の創業者の偉大さを感じるとともに、作り方を学びたいと思います。